EVAR10年の軌跡 - Their Challenges and Passions -


Japan Zenith 10th anniversary
Stories from pioneering physicians

企業製ステントグラフト登場まで

1990年代半ばから、日本でも外科手術が実施できない大動脈瘤の患者さんに対する新たな治療法として、医師の自作ステントグラフトによる治療が試みられるようになりました1)-4)

「計画通りに置けるか、設計した通りに広がるか、留置したあと瘤がふさがるか。自作ステントグラフトの時は症例が近づくと不安とストレスで胃が痛くなることもあった。後に、Zenith AAAの症例で、位置決めした後トップステントを開くという手順を見た時、安心して正確に留置できるということを身をもって体験した。やっぱりこれからはこういう企業製デバイスだなと思った。」 

- 吉川 公彦先生 (奈良県立医科大学 放射線医学教室 教授・IVRセンター長)

「外科手術が出来ない患者さんのために何か良い方法がないだろうかと探し続け、期待を寄せた治療法がステントグラフト内挿術。企業製製品がない頃は、自ら機器づくりをした。最初の頃は、金属部分のパーツ作りのために直接下町の金型工場の人とやりとりをしたこともあった。自社の技術を人助けに応用したいという思いをもった企業の人たちとのディスカッション。そんな、素材からすべてがカスタムメイドの時代もあった。Zenith AAAを初めて見た時には、パーツにしても構造にしても一番臨床に近い機器だなという印象だった。」 

- 石丸 新 先生 (戸田中央総合病院 副院長・血管内治療センター長)

「あの頃は、患者さんの大動脈瘤を撮影したCTとにらめっこしながらステントグラフトの設計図を描いた。実際にどう留置されるべきなのかをイメージして。そんな設計図を手書きで作成し、治療を行う日々だった。」 

- 加藤 雅明 先生 (森之宮病院 心臓血管外科 部長)

「一つ一つを6時間くらいかけて作って。実験に実験を重ねて作ったが、それでも手術はうまくいったりいかなかったり。企業製ステントグラフトを使った時は、これでもう自分で作らなくていいんだと、その負担の軽さに驚き、うれしかった。」 

- 大木 隆生 先生 (東京慈恵会医科大学 外科学講座統括責任者、血管外科分野教授・診療部長)

企業製ステントグラフト

Zenith AAA 治験と承認

2000年8月にZenith AAA国内治験の最初の症例が行われました。4施設において全97例が実施され、2006年7月11日、Zenith AAAは企業製ステントグラフトとして日本で初めての製造販売承認を取得しました。

奈良県立医科大学 吉川 公彦 先生

奈良県立医科大学
吉川 公彦 先生

IVRを始めたばかりの頃から、将来は大動脈瘤を開腹せずに治療できたらいいなという思いがあった。

自作ステントグラフトを経て、使用するチャンスにめぐりあえた企業製ステントグラフトがZenith AAA。Cleveland Clinicでの研修後、Roy Greenberg先生が来日し奈良で打田 日出夫 先生と共に2症例を一緒に行った。その時の感覚は一生忘れられない。留置の際、ピタッと思った位置における安定感、安心感。それはすごい感動だった。デバイスの完成度。これだったらいけるなという感触を持った。

Greenberg先生との出会いが無かったら、治験も始まらなかったかもしれない。初めてZenith AAA治験症例を行ったのは、2000年8月のこと。症例登録が進む中、患者さんの中には低侵襲な新しい治療法だと説明しても、それまで日本で行われていなかった治療だと知ると不安を感じる方もいた。しかし、丁寧な説明によってその不安は取り除けることがほとんどだった。それができたのは、80年代よりIVRを専門に行ってきてカテーテル治療には習熟していたという自負があり、患者さんへの身体的負担の少ないIVRで治すという強い信念を持っていたからこそ。

「画像診断から低侵襲治療まで」という理念のもとIVR治療を行ってきた。CTを中心とした術前の画像診断と、デバイスの選択や細かなカテーテル操作のテクニック。それらから、承認後にステントグラフト内挿術の安全な普及のために貢献できることは多くあると感じていた。治験で経験した日本人に特徴的な解剖の症例に対して、デバイスをいかに安全に入れていくかという点も、他施設での指導の際に注力したポイントだった。

IVRを始めたばかりの80年代の頃から、将来は大動脈瘤を開腹せずに治療できたらいいなという思いがあった。しかしその頃は具体的な方法など分からなかった。その後、様々なIVRの技術・デバイスが開発され、時を経てステントグラフトが登場し、今に至っている。ステントグラフト内挿術は様々なIVRの技術の集大成だ。振り返ると私自身、この新しい治療法と共に育ってきたなと実感している。

2000年代の初めに欧米で存在していた企業製ステントグラフトの多くは淘汰されたが、Zenith AAAは生き残った。そして日本でもZenith AAAは着実に治験を実施し、承認され現在に至っている。それは感慨深いことであり、ステントグラフトのルーツと言っても過言ではないだろう。

安全な普及を目指して

2007年にZenith AAAは保険適用。臨床導入にあたっては、2006年12月に制定された「腹部大動脈瘤ステントグラフト実施基準」を遵守することが求められました5)

80年代から血管内治療に興味を持ち、最新の情報を求めて90年代前半からアメリカ・アリゾナ州のiCON(International Congress on Endovascular Interventions)に参加した。当時の日本では体験できないようなライブデモンストレーション中心のプログラム構成で、いつか同じ様な会を自分でも開催してみたいと思った。

どうやったら承認後に皆がステントグラフトを安全に使えるようになるだろう?Zenith AAA治験が始まった頃、安全な普及についても思い描き始めていた。そして、ライブデモンストレーションをプログラムの中心とする学会「TOWSES」(The Tokyo Working Symposium on Endovascular Surgery)を1999年から開始。医師達がステントグラフトを臨床で使用するイメージをわかせ、治療を始めるための手助けになればと思った。ライブの参加者たちが待ち望んでいた企業製ステントグラフトの最新情報も提供して。ステントグラフトに対するモチベーションの急速な高まりを感じた。

昔、学会でステントグラフトについて聞かれた時には「うまくいくとは思っていない、信じていない」といつも発言していた。金属に布を張り巻いているだけのものが血管のなかで一体いつまで耐えられるのか。それは先々の効果は未だ誰にも分からないという自身の真摯な気持ちから出た言葉。新しい治療を始められる、と医師として気持ちは高まるばかり。しかし、良いと思いこまず客観的に自分をみるような立場におきたいと思った。のめりこみ、周りが見えなくなることは治療への悪影響を生み出す可能性もある。そして、新しい治療を始めた人間の責任として先々の結果まで見届けないといけない。少なくとも10年見なければ語れないと考え、この10年やってきた。

治験が始まった頃、安全にステントグラフト内挿術が広がっていくような仕組みを考え、かつ治療を行う医師に対して、遠隔成績をちゃんとフォローアップすることを義務化したいという話をPMDAとし、厚生労働省の承認を得た。全例調査で。そんな考えから設立されたのが日本ステントグラフト実施基準管理委員会だった。これまで日本の医療業界では前例のなかった仕組み。10の関連学会の理事、ひとりひとりと対話し意見を取り入れ、実施基準作りをすすめた。

ステントグラフトを製造する企業とも、研修のアウトライン作りの部分などでタイアップした。海外での実施内容を参考にしつつ、学会の認定や症例数、指導医による指導など日本独自の部分を新規に考えて。安全に対する思いは、企業ともシンパシーがあった。製品を世に出すために関わった国、医師、企業すべての関係者がマーケット構築のために更なる協力を続けることで、新しい治療法の安全で迅速な普及へと動きだすことができたのではないだろうか。

90年代後半、世界各地で進む企業製ステントグラフト開発情報に触れた。初めてZenithAAAを見た時は、最も臨床に近いデバイスだと感じた。先行した企業製ステントグラフトは他にもあったが、日本ではこの製品が最初の承認を得た。そこから日本のステントグラフト治療は発展し、今に至っている。そういう意味ではZenithAAAはステントグラフトの起源と言える。

2016年、承認後のステントグラフト内挿術の10年成績が出る。自身が信じてきた治療法を、この実臨床の成績を見て納得し語っていきたい。

戸田中央総合病院 石丸 新 先生

戸田中央総合病院
石丸 新 先生

新しい治療を始めた人間の責任として、少なくとも10年見なければ語れないと考えた。

標準治療にむけて

2007年1月から実施医のトレーニングが開始されました。2016年3月現在、腹部大動脈瘤のステントグラフト治療実施施設は全国で493施設6)に上ります。

森之宮病院 加藤 雅明 先生

森之宮病院
加藤 雅明 先生

ゴールはステントグラフトを「植えること」ではなく、「大動脈瘤を治療すること」であると繰り返し伝え、指導した。

まだ世の中で広く知られるようになる前、ステントグラフト治療は標準治療になるだろうと信じていた時期があった。患者さんが求める治療になるだろうと。低侵襲なステントグラフト治療が自然と希望されるようになり、多くの医師たちも患者さんが希望するこの治療法を始めることになるだろうと。そう考えたからには10年はそれを目指してやっていこうと思い、現在に至っている。

もちろん治療の広がりは成績が伴ってからこそ成立する。当時少なくとも短期の成績が外科手術と比べて圧倒的に良かった。近い将来、長期成績でも外科手術を上回るようになるだろうと考えていた。しかし、最初の頃は、この治療法を信じる気持ちとはうらはらに「大動脈瘤が治った」といって実は治っていなかった、そして治療法自体が消えてしまうのでは、そんな思いがうかんだこともあった。この治療法がよいと言っていたのにペテン師になってしまうのではないか、と。しかし、ステントグラフト治療は根付き、受け入れられてきた。それはステントグラフトという治療法自体に外科手術に匹敵する力があったからではないだろうか。

企業製ステントグラフトが承認された時、患者さんの期待に応える治療法にしなければという責任感を胸に、全国を指導のために駆け回った。当時は安全な普及が最も重要なポイントだった。事故があったらこの治療法が葬り去られる可能性もあった。ゴールはステントグラフトを「植えること」ではなく、「大動脈瘤を治療すること」。指導先の病院では手術に参画しながら、この本来の目的を繰り返し伝え、Healthy zone からHealthy zoneまでステントグラフトを留置しているかを厳しい目で見てきた。

多数の手順があるZenith AAAだが、IFUにのっとって指導すると慎重に手技を進めるためのキーポイントが分かる。それはステントグラフト内挿術のテクニックの基礎を伝えるために役立った。外科手術の経験をバックグラウンドに持つ医師達の多くは、大動脈瘤の形を見るという癖がついていなかった。穴が開くほどCT画像を見てサイジングしなければこの治療は出来ないという認識をもつためにZenith AAAのサイジングシートが活用できた。術前のプランニングに一番重要なポイントがあるということを周知できたと思う。

Zenith AAAはステントグラフト治療を共に開拓してきた相棒のような存在。良い部分もまだまだだなという面も含めて。安全に普及できなければ、初期の1種か2種の製品だけでこの治療法が消えてしまう可能性もゼロではなかっただろう。企業製ステントグラフトは現在、多くの医療機器メーカーの製品が登場しマーケットとして確立した。長期成績も外科手術と比較できるレベルになってきている。胸部大動脈瘤の治療法としてもTEVARが普及。さらに2015年にはB型胸部大動脈解離用のZenith TXDも保険適用された。数年のうちに標準治療として成長するだろう。

患者さんからもらう言葉は昔から変わらない。外科手術でもステントグラフト内挿術でも治ると患者さんは「ありがとう」と言ってくれる。患者さんの期待に応える治療として育ってきたステントグラフト治療。しかし、それはあくまで大動脈瘤を治す一つの手段だ。病気を治すことがターゲットであることを忘れてはいけない。それを忘れなければ医師も企業の新たなデバイス開発も道を間違わず、これからもステントグラフト治療は発展し続けるだろう。

適応の広がり、これから

現在、ステントグラフトは更なる大動脈疾患治療への適応の広がりを目指して、活発な開発が進んでいます。

承認当時のステントグラフトは特殊な治療、今はそれがスタンダードな治療。最近は患者さんがステントグラフト治療をうけるからといって感動することも機会としては減っているのではないだろうか。でもそれだけこの治療法が普及したということであり、喜ばしいこと。感動というのはリスクの裏返し。感動のない医療がおだやかで、いわば完成された医療だから。感動が薄れてきたのは健全な証でもある。

2006年Zenith AAA承認直後のステントグラフト治療は、ほぼゼロからのスタート。しかし、今振り返るとかけがえのない第二の青春のような思い出であり、人生における印象深い1ページ。もう1回やれと言われたらちょっときついけど。血管外科医局の若い医師たち、手術室の看護師、そして製品含め、最高のパートナーだった。みんな戦友であり、感謝している。一人では物理的にできないし、やはり心が折れてしまう。でも仲間がいるから、戦友がいるからああいう苦労を乗り越えられた。

当時は、実施施設立ち上げのため全国を回る苦労もあった。主要施設で治療できる患者数には限りがある。医療というのは、一部の医師の特殊技能であったり、あるいは一部の施設でしかできない技術、そういうオタクなものであっては価値が低い。やはり普遍性とか、裾野が広いとか。これが全国に数百名しかいない難病であればその必要はないかもしれない。しかし、患者数でみるとCommon diseaseとも言える腹部大動脈瘤を治療する際に、一部の施設のみでできる治療技術ではその価値は半減してしまう。やはり全国すみずみでその技術が使えるようになること、そのための活動は当時ウエイトが重かった。アメリカでZenithAAAの指導医として活動した経験は帰国後、日本で普及させる時に活きたと思う。ステントグラフト治療を広げたい思いというよりも、使命感で動いたという感じ。

今後の開発に関しては、やはり、よりLow Profileのしなやかなデバイスが一つのブレイクスルーのきっかけになるだろう。一方では、現在保険適用となっているステントグラフトで治療できない患者さんも多くいる。ネックの短い症例、アクセスの悪い症例、弓部大動脈瘤、そういう高難度の症例に対する枝付きステントグラフトに対する期待は今も、昔も、今後も変わらずある。難しい大動脈瘤こそ開胸あるいは開腹外科手術のリスクが高く、そういう症例にこそ、ステントグラフトのメリットが活きる。

アメリカから帰国した2006年、ちょうどZenith AAAは製造販売承認を取得した。幸運で運命的だと感じた。あの時、承認されたデバイスがなければ、戦う武器が無い状態で戦場に向かう、そういう状況になっていたわけだから。そういう意味では、Zenith AAAは日本でのステントグラフト内挿術の普及を共になしえた恩人であり、パートナーのような存在。

しかし、それもまだ10周年、まだ小学生だ。ステントグラフトのテクノロジーは端緒についたばかりで開発の余地がたくさん残っている。完成された手術はひとつもなくて、必ず改善の余地がある。もっといい方法、もっと安全な方法、もっと確実な方法が。10年たっても20年たっても完成形は無いはず。だから今のステントグラフトも完成されたとは全く思っていない。5年後、10年後は今よりももっと良い方法でできているように、引き続き、その開発には尽力したい。

東京慈恵会医科大学 大木 隆生 先生

東京慈恵会医科大学
大木 隆生 先生

感動というのはリスクの裏返し。感動のない医療がおだやかで完成された医療ではないだろうか。

Message ~ステントグラフト治療に携わる先生方へ~

ステントグラフト治療に携わる先生方へ

※ 文中の「Zenith AAA」は2006年7月11日に製造販売承認を取得したCook社製品<販売名:クックゼニスAAAエンドバスキュラーグラフト、承認番号:21800BZY10175000)>を、また、Zenith TXDは、Cook社製品<販売名:COOK Zenith大動脈解離用エンドバスキュラーシステム、承認番号:22600BZX00454000>を示します。

Reference:
1) Masaaki Kato, Takehisa Matsuda et al. Experimental Assessment of Newly Devised Transcatheter Stent-Graft for Aortic Dissection. ANN Thorac Surg 1995;59 908-15
2) Satoshi Kawaguchi, Yoshihiko Yokoi, et al. Thoracic endovascular aneurysm repair in Japan: Experience with fenestrated stent grafts in the treatment of distal arch aneurysms. J Vasc Surg 2008;48:24S-29S
3) Takatsugu Shimono, Noriyuki Kato, et al. ENDOVASCULAR STENT-GRAFT REPAIR FOR ACUTE TYPE A AORTIC DISSECTION WITH AN INTIMAL TEAR IN THE DESCENDING AORTA. J Thorac Cardiovasc Surg 1998;116:171-3
4) Kimihiko Kichikawa, Hideo Uchida, et al. Aortic Stent-Grafting With Transrenal Fixation:Use of Newly Designed Spiral Z-Stent Endograft. J ENDOVASC THER 2000;7:184–191
5) 日本ステントグラフト実施基準管理委員会「実施基準作成の経緯」より<http://stentgraft.jp/pro/detail/
6) 日本ステントグラフト実施基準管理委員会「登録状況」より<http://stentgraft.jp/pro/report/

AI-D25612-JA